10年前の私はまだ元気が有り働き盛りでした。
その頃の私はイベントも精力的にこなしていてある時関東のショップへ
マフラー取り付け担当のM君を引き連れ向かいましたが私の心の中は
不安でいっぱいでした。
不安は的中しオープン1時間で注文が次々と入りすでに6台のマフラーを
取り付けることになりました。
その後もドンドンと取り付け予約が入り昼頃にはすでに当日の取り付けが
不可能となりお客さんには次の日の取り付け予約と言う事で納得してもら
う状態でした。
明日も当然同じ状況になるだろうと思い直ぐ会社に電話をして応援を要請
しました。
メンバーに選ばれたのは今も現役メカニックで世界を飛び回っているTメカ
ニックでした。
明日は応援部隊が来る事に勇気付けられたM君の活躍で忙しかった本日
の仕事も終わりホテルに戻りました。
応援を要請されたT君は会社の仕事が終わってから出て来る予定なので
深夜ホテルが分からないと困るので携帯電話を枕元において眠りに付き
ました。
夜中の3時頃電話が鳴ったので今到着したのかと思い飛び切り良い声で
もしもしと出ると相手の声はT君の声ではなく隣の部屋で疲れきって泥の
ように眠っているはずのM君の声ではないか。
私は体の具合でも悪くなったのかな?
昨日はよく動いてもらったからなーと思い優しくどうした?
と聞くとM君は少し焦った声で今ロビーに居るのだがすぐ降りてきて欲しい
と言うので訳を尋ねると実は原さんが部屋に入るのを見届けてから昔の
友達の所に遊びに行ったのだが終電に遅れタクシーで帰ってきたがお金
が無いのでタクシーを待たせているから金を貸して欲しいとの事・・・
私は開いた口が塞がらず言葉を失いかけたが思い直して馬鹿者
そんなの知るかと言うのが精一杯でしたがタクシードライバーにこれ以上迷
惑をかけることが出来ないので渋々ロビーまでお金を持って行きました。
そんな出来事があった次の朝食事をしていると少し遅れてきて何ら悪びれ
た様子も無く今日は良い天気だからまたお客さんがいっぱい来るねと言い
ながらたっぷりと朝食をとるM君でしたが私は余裕のM君を見て心の中で昨
日貸した金は覚えていてくれるのかな?
と少し不安になりました。
一方T君は夜11頃着いていたそうです。
食事後8時半頃ショップに着き準備を始めていると予約のお客さんが来た
ので作業を開始しました。
作業を見ようと除々に人が集まり始め作業現場は人垣が出来ていました。
T君は絨毯の上に単車をおき工具を芸術的に使いこなし周りのお客さんを
引き込む演出をしながら取り付けていきます。
後で店のスタッフから聞いた話ですがTメカニックの無駄の無い動きと流れ
るような作業をみて憧れたお客さんは将来レースメカニックになろうと一念
奮起し勉強を始めた人が居たそうです。
一方のM君もお客さんに見られているのが痛いほど分かるので相当プレッ
シャーを感じている様子で一生懸命作業をしていました。
暫らくしてM君担当のマフラー取り付けが終わりホッとして立ち上がろうとし
ているが安堵感からかその頭上にハンドルがあることをすっかり忘れてしま
ったM君は思い切り立ち上がった瞬間ゴーンとタンクが共振した時のような
鈍い音がしました。
ウヮー痛そうしかし当の本人は強烈な音がしたにも関わらず周りのお客さん
の手前か何事も無かったように平然としています。
そんなアクシデントがあった直後次のM君担当の単車が来るまでの間Tメカニ
ックの手伝いをしたのですが何故か動きがちぐはぐでとても手伝いになりませ
ん。
不思議に思った私とT君が後で本人に確認したところ、頭をぶつけてからTメカ
ニックの手伝いをしたと言う記憶も無く暫らくの間は殆んど気力と本能だけで動
いていたみたいです。
本能で動いたM君に私は少し尊敬の念すら覚えタクシー代をおごってあげる事
にしました。